有名なアリアだけを聴いて、単なる恋愛モノだと思っているなら、それは大きな間違いです!
オペラ『トスカ』はフランス革命に端を発するヨーロッパ史の大転換期を描いているのです。
まずは簡単にあらすじを確認しましょう。
【トスカあらすじ】
舞台は1800年6月17日のローマ。
画家カヴァラドッシは政治犯として追われている友人のアンジェロッティの逃亡を手助けします。
それに気づいた警視総監スカルピアはカヴァラドッシを捕ら、拷問にかけます。
カヴァラドッシの恋人トスカはスカルピアに慈悲を求めると、代わりにトスカの操を差し出すよう要求されます。
トスカは条件を呑む振りをして恩赦を取り付け、迫ってきたスカルピアをナイフで刺し殺します。
しかし、スカルピアの恩赦は偽りでカヴァラドッシは処刑されてしまい、トスカも後を追って自殺し、幕となります。
【歴史的背景】
18世紀のイタリア・ローマは政治的に非常に不安定でした。
1796年、フランス・ナポレオン軍の後押しによりローマ共和国が樹立
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1798年、反仏・反革命派のナポリ王国がオーストリア軍と協力し、ローマ共和国を倒す
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その後、ローマ法王庁の警察が革命派を厳しく弾圧
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1800年6月17日、イタリア・マレンゴでナポレオン軍が苦戦を強いられていたオーストリア軍に歴史的勝利を収める
お気づきになりましたか?
そうです、『トスカ』はナポレオンがオーストリア軍に勝利した日を舞台に描かれた物語なのです!
では、その歴史的背景がどのように関わっているのか?
それを読み解くためには主人公たちが何者であるかを知る必要があります。
【画家カヴァラドッシは何者?】
まずはカヴァラドッシの旧友であるアンジェロッティについて確認したいと思います。
アンジェロッティはローマ共和国の執政官でした。
しかし、1800年にローマ共和国が廃止され、教皇国家が復活。
「ローマ共和国樹立に加担した罪」でサンタンジェロ城に投獄されてしまいました。
カヴァラドッシは脱獄したアンジェロッティを命懸けで逃がそうとします。
それは、カヴァラドッシもまたアンジェロッティと同じ志を持った人物だからに他ありません。
教皇国家は、いわば中世をひきずった、一部の特権階級だけが優遇される社会。
カヴァラドッシは、その旧体制支配からの脱却を志した人物なのです。
【スカルピアは何者?】
一方のスカルピアは不平等な封建制度の恩恵を受けている、支配者側の人物です。
ローマ法王庁の警視総監で絶対的な権力を持っていました。
部下スポレッタが状況報告を怯えながら行う様子からみても、生かすも殺すもスカルピア次第という程なのでしょう。
【自由・平等の精神 vs 中世の封建制度】
それぞれの立場が明確になったでしょうか。
カヴァラドッシ=自由・平等の精神
スカルピア=中世の封建制度における特権階級
二人の対立がそのまま当時の時代背景を表していることがお分かりいただけるかと思います。
そして、物語の中で大きく歴史が動きます。
そう、ナポレオンがイタリア・マレンゴでオーストリア軍を打ち負かすのです。
その時、カヴァラドッシはスカルピアによる残酷な拷問を受け、息も絶え絶えでしたが、その報せを聞いた瞬間、挑戦的に勝利を宣言します!
"Vittoria!Vittoria!"(勝利だ!)
https://www.youtube.com/watch?v=yIAL6QEMBdY
この場面ころがオペラのクライマックスだと言っても過言ではありません。
『妙なる調和』や『星は光りぬ』ももちろん名曲ですが、オペラのテーマから見ると、この2分間がテノールの真の見せ場ではないかと思います。
ヨーロッパ芸術ではフランス革命前後を舞台にした作品が数多くあります。
それほどヨーロッパ人のアイデンティティを形作る上で重大な歴史的転換期なのでしょう。
ヨーロッパの文化を勉強する者として、より深く正しく学んでいきたいと思います。