迫力のあるアクションシーンを期待していましたが、観終わってみると、殺し屋ファブルが温かい心を育んでいく過程が最も心に残りました。
元々、ファブルは幼い頃からボスによって殺し屋に必要なスキルのみを徹底的に叩き込まれていました。
恐らく他者と深い人間関係を築く経験はほとんどなく、人の命の尊さについて思いをめぐらすこともなかったのでしょう。
一方で、ファブルが嬉しそうに自然の恵みの素晴らしさについて語る場面があり、ファブルの感性の豊かさが垣間見られます。
ファブルの感性は意外な形で周りの評価を受けます。
それはイラストです。
まるで子どもが書いたような稚拙な動物のイラストが印刷屋の社長の目に止まり、広告に採用されます。
そう、ファブルの心はまるで無垢な子どものよう。
ジャッカル富岡という芸人の下らないネタに爆笑するのも子どものような感性の持ち主だからなのでしょう。
(ギャグが小島よしおの「そんなのカンケーねー」とほぼ同じフレーズでしたね笑)
ファブルはボスの紹介でヤクザの幹部 海老原(安田顕)の世話になり、普通の生活を送り始めます。
海老原はファブルに向かって言います。
「不条理なこの世で唯一平等に与えられた命について、お前はどう思っているんだ。」
ファブルは答えます。
「最近インコを飼い始めた。大切に育てたいと思っている。今はそれしか言えない。」
また、ボスが海老原にこう語る場面があります。
「あいつが一年間普通の生活を送った上で殺しの技術が落ちることがあれば、俺があいつを殺す。それが俺の責任だ。」
そうか!ボスがファブルに『普通の生活』を送らせたのは、大人になるための通過儀礼だったのか!
命の重さを知った上で、プロとして殺し屋を続けていけるのかどうかを見定める試練。
その中でのファブルの心の成長がこの映画のテーマではないか!と思い至りました。
更に、海老原が物語に深みを与えてくれます。
海老原は可愛がっていた弟分小島(柳楽優弥)の救出をファブルに依頼します。
しかし、最終的に小島自らが犯した罪にけじめをつけさせるため、海老原自らの手で命を奪います。
このクライマックスの場面で映画全体がグッと締まったように感じました。
何百何千の人の命を奪った殺し屋が命の大切さに気付いていくストーリー。続編に期待!