私のポルタフォリオ

某音楽系大学を卒業後、府立支援学校教諭に。「継続は力なり」の精神で声楽も地道に続けております。時々奥さんが記事を書くこともあります。

どうすれば非行を防げるのか?『ケーキの切れない非行少年たち』宮口幸治:著

本書では、知的障害によって生きづらさを抱えた子どもたちが「何故非行を繰り返すのか」「それを阻止するにはどうすらばよいのか」が、さまざまなデータや著者の実体験を元にして書かれています。

 
子どもが非行を繰り返さないためにはどうすればよいのか。
それは【自己への気づき】と【自己評価の向上】が鍵となります。
以下は犯罪を行った少年たちが実際に変わろうと思ったきっかけです。
 
「被害者の手記を読んで、犯人をボコボコにしてやりたい気持ちになった。」
 
「先生から注意されている他の子を見て、自分まああだったのか、と思った。」
 
「少年院の中で難しい役割を任された時、信頼されていることに気付いた。信頼してくれた先生を裏切りたくない。」
 
本当の意味で子どもが変わるためには、子ども自身が自分の言動に向き合い、内省することで気づきを得るしかありません。
外から圧をかけて無理やり変えることは決してできないのです。
そして、人は誰しもが「誰かに認められたい」「頼られたい」という思いを潜在的に持っています。
それが実感できる経験をした時が、その子が生まれ変わる大きなチャンスなのです。
 
 
非行少年に共通する特徴を以下の5つにまとめられています。
 
①認知機能の低さ
②感情統制の弱さ
③融通のきかなさ
④不適切な自己評価
⑤対人スキルの乏しさ
 
認知機能の低さとは、五感で得た情報を整理する力の弱さです。
それ故、間違った認識や見通しの持てなさによってトラブルが起きる、事の重大さが分からない、教育が積み重ならない、などの弊害が生まれます。
 
感情統制の弱さでは、怒りのコントロールが一番の問題です。
不快な感情によってモヤモヤした気持ちが溜まり、ストレスに変わっても発散できず、不適応行動に至る。。。
自信のなさや自己愛・こだわりが強いことも怒りの感情が沸きやすい要因となります。
 
融通のきかなさがあると、「ちょっと待てよ」と立ち止まり、違った視点で物事を考えるようなことができません。
周りが見えず、思いつきで行動してしまいます。
 
不適切な自己評価ができていないと、自分の洞察が正しく行えず、内省につながりません。
 
対人スキルの乏しさでは、反社会的な行動を断り切れなかったり、困った時に助けを求められないことで犯罪に巻き込まれるリスクが高くなります。
(『ザ・ノンフィクション』の極貧生活を送る地下アイドルの話を思い出しました。彼女はクズ飯を食べるほどお金がないのにも関わらず、新聞を2紙とっているそうです。)
 
 
本書では、子どもたちの困り感を取り除くためには認知機能強化トレーニングが有効だと語られています。
 
「コグトレ(認知機能強化トレーニング)」は認知機能を構成する5つの分野[記憶、言語理解、注意、知覚、推論・判断]に対応する5つの訓練【覚える、数える、写す、見つける、想像する】から成っています。
 
私の職場でもよく利用しています。

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コグトレ「見つける」訓練
ワークブックをコピーすればすぐ使えますし、朝や帰りの会の短い時間で取り組めるので、とても使い勝手が良いです。
このトレーニングさえしていたらいいとは決して思いませんが、認知機能の低さによって生きづらさを感じているのであれば、それを放置する訳にはいきませんよね。
 
 
学校教育、特に不適応行動の多い子どもに対する教育は、問題事象が起きてからの後手の指導になりがちです。
社会に出てから同じ事象を繰り返し続けることがないよう、学校にいる間に生徒自らが「変わろう!」と思える手助けができればと思いました。